地理的表示と地域団体商標との比較

地理的表示と同様に地域産品を保護するために地域団体商標制度があります。
ここでは、地理的表示と地域団体商標との比較を行います。

先ずは、申請(出願)の場面での比較を行います。

申請人(出願人)適格

地理的表示の登録申請をできる者は、生産者を構成員とする生産者団体、または、生産者団体を構成員とする団体です。なお、団体は法人である必要はありません。
一方、地域団体商標は、「地域団体商標」でも説明しましたが、農業協同組合,漁業協同組合,商工会議所,NPO法人等であり、法人である必要があります。
したがって、生産者団体等が法人格を有していない場合には、地域団体商標を出願することはできません。ただし、生産者団体に代わって商工会議所等が地域団体商標を出願し、使用許諾を受ければ、商標権者にはなり得ませんが、商標の使用は可能となります。

名称(商標)

地理的表示における名称は、産品が特定農林水産物であることを示すものでなければなりません。具体的には、名称から、産品の生産地、および、産品の確立した特性と生産地との関連性を認知できる必要があります。なお、これらが特定できれば、名称に地名を含む必要はありません。
また、名称が周知であることは求められませんが、伝統性が求められます。農林水産省の見解では、25年程度の伝統性が必要であるとのことです。
一方、地域団体商標での商標は、地名+産品名のような構成である必要があり、名称には地名が含まれている必要があります。また、商標が周知である必要があります。
したがって、伝統性があるものの、十分に周知でない名称の場合には、地理的表示が適していると言えます。
また、地域団体商標では願書には一つの商標しか記載することができませんが、地理的表示では同じ産品を指し示している限り複数の名称を記載することができます。したがって、生産者団体に属する生産者が使用している名称が統一されていない場合には、地理的表示が適していると言えます。

費用

地理的表示の申請費用は不要となっていますが、登録時に90000円の登録免許税が必要です。
一方、地域団体商標の出願費用は、12000円となっています。また、登録時に登録料37600円、
更新登録申請時に更新登録申請料48500円が必要です。

次に、登録された後の比較を行います

存続期間

地理的表示には存続期間は定められていません。すなわち、何の手続をせずとも永続的に使用することができます。
一方、地域団体商標に係る商標権の存続期間は、通常の商標権と同様に、登録日から10年です。ただし、更新登録申請をすることにより、永続的に権利を保持することができます。

品質管理

品質管理は地理的表示の大きな特徴の一つであり、地理的表示では生産者団体に品質管理(生産行程管理業務)の義務を課しています。
具体的には、生産者団体は、構成員である生産者の生産工程や生産された産品が明細書に適合しているかを確認し、違反があれば指導をしなければなりません。また、地理的表示の使用や登録標章の使用に関しても監督、指導をしなければなりません。なお、これらの内容は1年に一度農林水産省に提出しなければなりません。
一方、地域団体商標ではこのような品質管理の義務は明示的には課していません。ただし、劣悪な産品に商標を使用していた場合には、不正使用取消審判により商標権が取り消される場合があるため、品質管理が不要な訳ではありません。
このように、地理的表示では品質管理等の業務が必要となり、また、生産者自身も品質等を十分に管理する必要があります。そのため、地理的表示の登録申請をする際には、生産行程管理業務を遂行できるか否かを検討する必要があります。

不正使用に対する対処

地域団体商標では、一般的な商標権と同様、商標権を侵害された場合には、権利者自身が民事訴訟(損害賠償請求,差止請求等)を提起する必要があります。
一方、地理的表示では、地理的表示や登録標章の不正使用があった場合には、農林水産大臣に通報し、農林水産大臣が措置命令を出します。この措置命令に従わない場合には、刑事罰を受けることとなります。
ただし、地理的表示でも民事訴訟は提起することができます。なお、地理的表示法には差止に関する規定はありませんので、不正競争防止法第2条第1項第13号,第3条に基づくことになります。


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